瀬戸内海の 空の白さよ 海の青さよ
・さて
この旅行はカメラを新調してから初めての遠出だ。
新しく、このグラマラスなカメラと生活して3か月弱、いろいろな景色を見せて、いろんなことを学んできたが…
やりたかった写真と俳句を絡めた紀行文、初めてキチント書けるようでうれしい。
期待を込めて出発!
1.出発
18きっぷの朝は早い。が、早速最寄り駅からの電車を一本のがしてしまった。
なんとか間に合わせて今は大阪駅である。
ここから姫路駅までを快速で飛ばす。
大阪駅を出て、まぁ三宮あたりまで景色も楽しくないので、イヤホンをつけて早々に音楽をかけた。
確か、始発の快速だったように思う。空の暗さに椎名林檎の声が刺さった。
夜が明けてきたのは須磨浦を通過するあたり。
丁度海と明石海峡大橋が見えて、とても幻想的だった。
ぐんぐん普通列車を抜かしていくところに、何か日常の通勤・通学と離れた、旅行をしている感覚を味わう。
ぼーっと考え事をしてると、同じく18きっぷで移動してる、多分向かい合わせに座ってる中学生くらいのグループがとても気になった。
結局何も話しかけなかったが、どうやら岡山まで一緒だったみたい。
そのあとは、本当に伸びやかな播州をひたすら駆けていく。
郊外というイメージのまんま、加古川を通過し、数駅で姫路に到着。
加古川を発車した後、予備校のテキスト解いてるお兄さんに席譲ろうとして、横入りされないように制しながら席を譲ったら、まさかのオッサンに負けてしまった。
そのあと無事席空いたようで、お兄さんはキチント着席して勉強してたけど、結果自分が立たされただけで悲しくなった。
さらに立ちながら荷物整理をしてたら、サブ機のKissDXを落下させて、レンズプロテクターを粉砕&歪ませてしまった。
だからさっきの写真、Sigma18-200DGの最期の写真である。
サブのサブ機のQ7を鞄に忍ばせておいて正解だった…。
良くないことは続くものである…。
2.山を縫って岡山
山陽本線は海沿いを流れるイメージがあった。
姫路より先は115系の普通電車で向かう。
18きっぷのシーズンということもあり、列車は満員で、自分も立ったまま岡山まで過ごすことになった。
山の中と町の縁を行ったり離れたりする山陽本線は、少々予期していたものとは違ったが、どうも哀愁と温かさが共存していて心地が良い。
最後尾の車両、乗務員室の文字越しに流れていく景色がとても懐かしく思われた。
運転室側の窓に持たれて本を読んでいるお姉さんがいた。
ボブの垂れた横の髪と、本の紙面でひとつの空間ができている。
本は、空間の最小単位なんだなぁと感じるとともに、私も尾崎放哉の俳句集を開く。
これから瀬戸内海の風を浴びるぞ、尾崎放哉のため息だ、と感じながら
おもむろに開いたページで、寂しげな文字をかみしめた。
9時前の冷たい空気と枯草に、荒涼としたジョイント音が抜けていく。
真っ黄色な電車は、時折にぎやかに貨物列車がすれ違うのを見てワクワクしながら、特急いなばをやり過ごすのに瀬戸駅で止まってしまった。
4分程度止まっていただろうか、車掌さんが何か仕事しているのが職人技といった感じ。
ー鉄道員の 寂しき肩は ひとり乗務員室
電車を出ると外はひんやりしていた。
ひとしきり写真を撮って、列車は岡山に向けてまた前進。
このころになるともう住宅街を通り抜けていく感じ、いよいよ岡山だと胸が高ぶる。
むしろ2時間弱たち続けているから、そこに安堵を覚えただけかもしれないが。
3.伯備線とさみしさ
列車は岡山駅に着いた。
ーマスコンを 握る目線の 先100キロ
このまま新見方面に向かう、この列車は実に一本だけで170kmを3時間かけて走行するのだ。
出発まで15分弱あったので、いったん駅舎でおみやげでも見ようかと土産物屋によった。
帰り食べようと駅弁をチェックして、特にめぼしいものもなかったからまた列車に乗り込む。
電車に乗って、窓際はもう空いてなかったからどの席にしようかと迷っていた。
すると、お母さんがどうやらストールをシートに落としたまま去ってったから、届けてやると、どうやら席取りだったみたい。
少々気まずくなりつつも、適当に座ってやり過ごした。
どうやら別な少年もこのトラップに引っかかって、その席のストールをどかして窓際に腰かけて、その人に何か言われてたよう。
列車は岡山を出て、新見を目指して走り出した。
隣の4人掛けの撮り鉄集団、EOSの7Dを首から、SLIKのゴツイ三脚を手にかけた中学生がいて、凄いなぁと思わされた。
どうやら美袋で降りるらしい、最初はチャチャっと豪渓で降りて川とやくもを撮るか、いっそ方谷で降りて川とやくもを、と思っていたが、私も美袋で降りることにした。
これがまずかった。
事前にグーグルアースでチェックしたほど道もよくなかったし、撮れそうなところは草でおおわれてた。
ダイヤ見なかったせいで、踏切の前で盛大にやくもが俺を追い越した。
オマケに、無駄に長い距離歩いて、昼飯をと思ってたカフェにたどり着けなかった。
しかたなしに美袋の駅で写真を撮ってあきらめた。
4.ひとひとり美袋
美袋の駅は再来年で築100年。
老子曰く、柔弱は剛強にかつ、と。
木造の優し気ある駅舎が100年を耐え抜くのが、いかにも遠くから世の中を眺めてきたようで美しい。
美袋の町の中では誰ともすれ違わなかった。
酒屋さんと思わしき建物は、ガラス戸の内側から木の板で壁が出来ていて面白かった。
大きな駐輪場があった、駐輪場の奥に隠れてハート、どんな恋があったのだろうか。
物語性と、その恋を誰も覚えていないのだという刹那さに旅の醍醐味・冒険具合が掻き立てられる。
駅前のタクシー乗り場にあった、薄た看板。
中性的な顔、中々美人。
少し行くとにぎやかな。
シャッターが閉じてるのと対照的で、余計寂しく思われた。
写真撮る前に、橋を渡って何キロか山を歩いてたので、疲れた。
駅に戻って待合室に腰かける…。
やくも・381系が駅を通過する。
最後の国鉄特急、自慢げな特急マークを押し付けて去っていった…。
もう少ししたら、もう一本やくも号が来た。
この写真を向こう側のホームで駅舎と撮ってれば…と後悔が止まらない。
どうにも悔しいので、春休みにリベンジでもしようか。
山茶花がホームに植わっていた。
よくわからんホームの標識。
なんだかラッキーセブンって感じで撮ったから、撮った理由もよくわからん。
4.岡山20分滞在
美袋駅には丁度1時間半くらいいた。
帰りには213系が来た。
でも全部の列車が223系と一緒のシートだから、特に感動もせずにウトウト。
窓際の席で川を眺めてぽかぽか睡眠。
気づくと岡山に到着。
ぼーっとした頭で、このまま香川に行ってうどんを食べようと考えた。
次のマリンライナーまでは後25分。
余裕があったので、駅から出て、通りの路面電車を写した。
吊りかけ音を放ちながら電車は去っていった。
5.瀬戸大橋を渡って
岡山駅でジャージー牛乳のドーナツと、白桃のジュースを買ったら、いよいよマリンライナーに乗り込む。
四国はごく小さいころに徳島に行ったっきりだ。
瀬戸大橋も初めて渡る。
妹尾、茶屋町、そして児島。
3駅止まって次は海の上、瀬戸大橋。
ートラスの間から眺むるは日本のエーゲ
列車の中には様々な人がいた。
スマホを見る人、彼女彼氏と喋りあう、パソコンで仕事等。
観光客に通勤客らしき人が混じる部分が、いかにも日常としての側面も持っていて面白い。
同じく、本来人が存在しえない場所である飛行機と違い、極代わり映えがない景色が空中で起こってる…不思議だ。
ともなく坂出についた。
飛んでいたのはたった10分弱らしい。
そこから高松までは早かった。
5.南国の風に当たって
瀬戸内海は温かい。
温暖な気候から、田んぼよりも畑・米より小麦の栽培が盛んになった。
うどんだ。
讃岐うどんを食しに、駅前のめりけん屋に向かった。
時刻は2時半で、店によっては売り切れになってるかもしれなかったので、駅前で定評高いこの店にした。
冷し肉ぶっかけの大を食べる。
冷たいコシのある麺が喉を騒がせる。
温かい甘辛の肉とさっぱりした出汁の組み合わせが何とも言えない。
のり天も甘辛の味がついててよかった、ちょっと油っこかったが。
大阪では食えない味だなぁと感動して完食、小柄な自分に見合わず、たった10分で平らげてしまった。
食べ終わって退店…と思ってると、横にいた中国と日本人のハーフ?らしいちびっこが完食!完食!みたいなこと言うて親指立ててニッコリしてきた。
拍手して手を振って店から出る。
6.跳ねることでん
JRで行ってもよかったが、やっぱり地方私鉄を味わいたい。
730円のきっぷ、ぺらぺらなきっぷを買って、列車に駆け込む。
ホントに駆け込み乗車だったのですみません。
最後尾の運転室横に座る。
高松築港駅を出て、市場を通り抜ける。
河原町という駅は、ホームが屋根で囲まれて、薄暗いタイル張りで、なんだか阪急みたいだなぁと思わされた。
河原町をすぎて、市場を超えたりしてどんどん家と畑を通り抜けていく。
ふかふかの椅子と、地方私鉄らしい線路で体が弾む弾む…楽しい。
急いで駆け込んだわりに、どうも琴電琴平まではいかないみたい。
途中の一宮で一時停止だ。
誰も乗り込まないまま電車は折り返していく。
10分くらい待って、赤い電車が来た。
普段通学で利用してる駅も、ちょうどこんな感じのスロープがある。
やっぱり構内踏切のある駅というのは好いものだ。
赤い電車に乗り込んで、車内の路線図を見て気づいたが、一宮駅でまだ半分も来てないのだ。
よくよく考えたら、私の大阪と殆ど大きさ変わらないんだから結構広い。
跳ねる列車と、冬の3時前のあったかい光線に眠気がやってくる。
時折目が覚めて、太陽の光が窓のサッシで遮られて、床とロングシートに影が出来てるのが美しいと思った。
気が付くと終点~、のアナウンスが。
どうも琴電琴平駅らしい。
7.こんぴらさん
琴電の駅はこじんまりとしている。
アンチクライマーの貫禄。このこじんまりした傾いたホームにも愛がある。
駅を出ると、意外と何もなかった。
橋を渡った先から有名な門前町が始まるらしい。
期待と達成感を感じながら歩を進める。
日本酒・金陵の店があった。
酒は飲めないが、面白そうなガチャガチャと甘酒が売ってたのでちょっと寄った。
500円でハズレ無さそうな、グッズが当たるガチャガチャ。
前掛け狙いでガチャガチャ引いたら、甚吉袋が当たった。
どうやら大当たりらしくて、かなり可愛かったので凄い嬉しい。
ホクホクしながら階段を上っていく。
この町の道案内は、どうやらメートルの代わりに何段かが書いてあるらしい。
さすがだなぁと思いながら、長い道を行く…
寂びれたお土産屋などを通り過ぎて、疲れてきた。
上の方にいくと、電柱の黄色い看板が目に付く。
灸まん、何なんだろうかと思いながら結局わからなかった。
とにかく無心に階段を上る、考え事をしてる暇はない。
やっとのことで頂上に着いた。
足滑らしたら死ぬよな、と思いながらの達成感。
とはいうものの、ここから先が長い…
ーこんぴらさん、門を入って何千段
とにかく、水を飲んでなかったのもあって喉が渇いた。
本殿までに神馬もいたり。
親子連れのお父さんが、子どもを背負う様子など中々賑わいの様子。
本殿まで必死に上ってお願いごと、結構曖昧な幸せ。
閉山が近いので、急いで階段を下りた。
行きはしんどい帰りはらくらく。
喉が渇いた、そういえば水分をマリンライナーから一切取ってなかった。
店が閉まってたので、仕方なくご当地でも何でもないPOPのメロンソーダを飲んだ。
ぬるくて、どうにもパッとしない炭酸だったが喉にしみる…。
また門前町に差し掛かって、ちょっと急ぎがちにJR琴平駅に向かった。
8.藍の空しこく
琴平駅では思った以上に待ち時間があった。
少々早くおりすぎたな、とも思うほど。
特急南風が停車したりして、普通電車が来るのは20分くらい後だったか。
せわしなく特急はディーゼルの香りを噴き出して去っていった。
海水浴場が近いみたいー瀬戸内海・放哉の死んだ小豆島の香り。
普通列車で多度津で降りた後は、観音寺方面行の予讃線で向かう。
夕暮れはこの多度津駅で。
今回の旅、どこかでディーゼルカーに乗れるのではないかと思ってたが、どうやらすべて電車だったようだ。
インバータの音が響く中で、寝る人、勉強する人、スマホを見る人、いろいろな人が生きている。
海岸寺駅で降りる。
人のいない駅、降りたのは3人ほど。
もちろん旅の恰好は私だけ。
車掌さんが切符の検札を車外でしていた、ローカル風情を覚える。
駅を出て、空を見ると星が美しかった。
絶景というほどでもないが、星がまたたくのを見て、なんだか暗い中歩いて海水浴場に向かいのも馬鹿らしくなったので止めた。
海の香りが漂う、それだけで十分なのだ。
この空気に関わらず、たった15分で帰ってくる電車に乗れるようだ。
またクロスシートにかけて多度津に向かう、多度津でもさほど待たされなかった。
9.四国脱出
多度津を出て高松に向かった。
勿論、途中で坂出を通るから降りてしまえばよいのだが、別に坂出に何かあるわけでもなさそうなので、高松に向かう。
意外と各駅停車で行くと時間がかかるようで、坂出を過ぎた先も、マリンライナーとは全然違う時間で進んだ。
高松について19時過ぎ。
次のマリンライナーまで10分弱、入線時にキハ40が見えたので、急いで駆け寄った。
高徳線のキハ40、確かエンジンまで国鉄仕様の車両はもうこれだけのはず。
いつか乗ってみたいなと思いながら、マリンライナーで四国を出た。
夜の瀬戸内海は静かである。
太平洋ベルトの光が対岸に見える瀬戸大橋、写真を撮ろうにも、よく写せなかった。
10.エンディング
瀬戸大橋を過ぎて岡山につく。
岡山ではちょっと時間があったので、ままかり漬け買って電車に乗った。
電車の中はなかなかゆっくりとした時間が過ぎる。
やはり夜景が見えない分面白みがかける。
スマホをいじるなり時間をつぶして、そういえばと昼間買った甘酒の缶を開けた。
四国遍路という名前らしい。
あんまり甘くない味からは、その日本酒の辛口って言われてるんだろうなぁって味がした、日本酒飲んだことないけど。
甘酒の涼しい味と、窓から差してくる冷たい空気がいかにも冬の様子。
MT54の音にせかされるように列車は山陽本線を走る…
ウトウトしながら夜行列車の気分を味わって一時間半で姫路に到着、新快速に乗り替えだ。
新快速に乗り替える、窓際の席はもう空いていない。
仕方ないからドア横の補助シートにかけて眠りについた。
時刻は23時過ぎ、大阪駅に着いた。
18きっぷの旅は大体8か月ぶりだった。
始発で出て終電で帰る、そんな旅行に昔からの伝統を覚えるのだ。
まだきっぷは4日分残ってる。
つぎはもっとこう、春休みの旅行みたいな、旅先での出会いも欲しいナと思った。